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『PLAY IT COOL』
リー・デラリア Lea DeLaria(Warner Bros. Records)
ミュージカルは愛を歌えるか
昨年アメリカで起こった同時多発テロに関する僕の見解は、こちらやこちらで間接的に述べてきた。要するに、テロの犠牲者たちはともかく、アメリカという国家は“単なる被害者”ではない、ということだ。
なので、巡ってくる 9月 11日を前に、「NHKスペシャル」等が盛んに“アメリカを中心とした自由主義国家 VS. テロリズム”という図式を刷り込もうとしていたりするのを見るとうんざりするのだが、まあ、一周年をピークに、これに似た物言いや“同時多発テロの悲劇”だけを強調した言いまわしの報道があふれてくるのだろう。
ところで、この『PLAY IT COOL』、ミュージカル関連という枠を除いても、今年最もよく聴いてきた CDの 1つだ。
歌っているリー・デラリアは、僕は、オールスター・イヴェント『マイ・フェイヴァリット・ブロードウェイ MY FAVORITE BROADWAY』と大コケした『オン・ザ・タウン ON THE TOWN』とで観たきりで、すっかりご無沙汰だったのだが、マニッシュな風貌とダイナミックな歌いっぷりで強く印象に残っていた。
その彼女の名前を再びニューヨークで見たのが、日本からの直行便がまだガラガラだった、昨年の 11月。『イレイン・ストリッチ/アット・リバティ Elaine Stritch/AT LIBERTY』を観に行った時だ。パブリック・シアターで行なわれていたストリッチの公演のプログラムに、同じパブリック・シアター内にあるキャバレー的ライヴ・スペース、ジョーズ・パブの告知ビラが挟んであって、そこにデラリアの名前があったのだ。
その時はスケジュールが合わずに観られなかった彼女のライヴを、あーたぶんこんな雰囲気なんだろうなあと想像させてくれるのが、この CD。時折ホーン・セクションを交えながらも基本的にはピアノ・トリオをバックにしたスウィンギーな演奏が、“キャバレー仕様”な印象だ。
『PLAY IT COOL』の収録曲は 11曲。全てミュージカルの楽曲だ。挙げてみよう。
- The Ballad of Sweeney Todd
from 『SWEENEY TODD』
- Cool
from 『WEST SIDE STORY』
- I've Got Your Number
from 『LITTLE ME』
- With Every Breath I Take
from 『CITY OF ANGELS』
- All That Jazz
from 『CHICAGO』
- Life Has Been Good to Me
from 『FAUST』
- Welcome to My Party
from 『THE WILD PARTY』
- Lowdown-Down
from 『THE WILD PARTY』
- Once in a Lifetime
from 『STOP THE WORLD ― I WANT TO GET OFF』
- Losing My Mind
from 『FOLLIES』
- Straight to the Top
from 『FRANKS WILD YEARS』
買った時は、このコーナーで以前採り上げた『ファウスト』のランディ・ニューマン Randy Newman やトム・ウェイツ Tom Waits(『フランクス・ワイルド・イヤーズ』)といったブロードウェイ未進出の著名ミュージシャンの作品が気になったが、聴いてみると、スティーヴン・ソンダイム Stephen Sondheim の手になる初めの 2曲(2曲目の作曲はレナード・バーンスタイン Leonard Bernstein)がアルバム全体の空気を決定していることに気づく。なにしろ、 1曲目「The Ballad of Sweeney Todd」は血の惨劇ミュージカルの不吉なテーマ曲だし、 2曲目「Cool」はニューヨークの暗部を描き出したミュージカルの抑圧された怒りのナンバーなのだ。
そういう目で眺めてみると、ストレートなラヴ・ソングがほとんどないことにも気づく。原曲に近いアレンジのトーチ・ソングの色濃い「With Every Breath I Take」や、かなりフェイクして歌われる、ごぞんじ『シカゴ』の「All That Jazz」、そして、マイケル・ジョン・ラキウザ Michael John LaChiusa の書いたパブリック・シアター版『ワイルド・パーティ』の 2曲等に漂うのは、どこか投げやりな感情だし。
にもかかわらず、この CDを聴き続けてきたのは、不思議に心が鎮まるからだ。“PLAY IT COOL”とは言い得て妙。そのココロは――ここから先の分析はあまり当てにならないが(笑)――人生って山あり谷ありだよね、ってことなんじゃないか。憎んだり怒ったり悲しんだり苦しんだり喜んだり、いろいろある。だからがんばろう、というのではなく、ただ、いろいろあるよね、っていう。それを、“諦め”ととるか“希望”ととるかは人それぞれだが、デラリアの歌からはダウナーな雰囲気は伝わってこない。心が鎮まりはしても、沈み込みはしない、ということだ。
ここで、もう 1枚。
一昨年にリリースされた、シンガー・ソングライター、リッキー・リー・ジョーンズ Rickie Lee Jones の『IT'S LIKE THIS』(ARTEMIS RECORS)。これも、よく聴いた。
カヴァー楽曲集で、ロックやソウルの名曲に交じって、後半に古めのミュージカル・ナンバーがいくつか出てくる。昨年 4月にニューヨークへ行った時に、『フォリーズ』をやっていたべラスコ劇場にチケットを受け取りに行ったら、売り場の中でかかっていて、うれしくなった記憶がある。
この 2枚のアルバムのつながりは、その『フォリーズ』――ではなく、『ウエスト・サイド物語』。『IT'S LIKE THIS』の最後に、『PLAY IT COOL』の「Cool」と同じく『ウエスト・サイド物語』のナンバー、「One Hand, One Heart」が出てくるのだ。
「One Hand, One Heart」――ニューヨークの片隅で、どうしようもなく憎み合ってしまう出自の違う少年たちが、かすかな希望に向かって手を伸ばす、祈りのような歌。ピアノだけをバックにしたリッキー・リー・ジョーンズとジョー・ジャクソン Joe Jackson のデュエットは、はかなげだが、果てしなく優しい。
とても心に染みる。
もちろん、ミュージカルはエンターテインメントにすぎない。何かに貢献しているのかどうか、まるでわからない。けれども、観客である僕らは、そこから多くのことを学ぶことが出来る。
だから――、半世紀近く前に自分たちの作った異文化衝突のドラマ(『ウエスト・サイド物語』)のことをアメリカ人たちが忘れているのなら、四半世紀前に自分たちの作った異文化衝突のドラマ(『太平洋序曲 PACIFIC OVERTURES』)のことは思い出して、学んでもらおうじゃないか。理解出来ないことは“理解出来ないこと”として理解する――そんな生き方をしてこざるを得なかった日本人の手で作り直したヴァージョンで。そして僕らも、そこから何かを学ぶ。
『太平洋序曲』日本語版が、 9月 11日を前にニューヨークとワシントンで上演されたことの意味は、そこにこそある。――この鬱陶しい時期、そんな夢想が、僕らミュージカル・ファンを救ってくれはしないか。
(9/10/2002)
Copyright ©2002 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro
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