|
[ゆけむり通信 番外1997]
4/23/1997
『アニーよ銃をとれ ANNIE GET YOUR GUN』
高橋由美子好演、いやホント
新宿コマ。高橋由美子主演。
少なくとも僕にとってはあまり魅力的とは思えない条件。その舞台を観に行ったのは、ひとえに小池修一郎(潤色・演出・訳詞)が手がけていたからだ。
ところが意外にも、高橋由美子、悪くなかった。
第1幕。
山育ちでライフルの名手アニー・オークリーは、開拓時代の西部を再現するワイルド・ウェスト・ショウのライフル撃ちフランク・バトラーにひと目惚れ。射撃助手として一座に加わったアニーだが、人並み外れた腕ゆえに人気を博し、財力のある“インディアン”シッティング・ブルにも見込まれるが、結果的に愛するフランクを他の一座に去らせてしまう。
第2幕。
ヨーロッパ公演を敢行し、山ほどの勲章を抱えて帰国の途につくアニーたちの悩みは、現金がないこと。そこに、フランクが加わった一座から願ってもない合併話が舞い込む。
おいしい話の裏事情はともかく、フランクとの再会に胸躍らせるアニー。だが、いざ出会うと、射撃名人としてのライバル意識が頭をもたげてしまう。
結局雌雄を決するしかないと、名誉を賭けた2人の腕試しが始まる。
あー、アニーの恋の行く末やいかに。
予想したよりは、という条件付きで聞いてください。高橋由美子のこと。
声がしっかりしている。歌もセリフも。
動きに淀みがない。
客に媚びたり、甘えたりすることもなく、安定感がある。
まあ、観ているうちに物足りない感じはしてきたが、それでも、スケールは大きくないものの女優としての華もあり、主演として最後までしっかり演じ通したことには拍手を送りたい気持ちになった。
高橋由美子に感情移入したのにはもう1つ理由があって、この舞台、興行的にキャストが弱いのだ。
いちばんのビッグ・ネームが、シッティング・ブルに扮する小松政夫。
以下、主要キャストは、フランクが石川禅、ワイルド・ウェスト・ショウの座長バッファロー・ビルが鹿内孝、マネージャー役が今村ねずみ、フランクの元助手で敵役的ドゥリーが麻倉未稀、ドゥリーの娘ウィニーの徳垣友子とその恋人トミーの畠中洋は元音楽座。
この布陣でコマ劇場1か月公演はきついでしょう。
事実、水曜マチネーだったこの日の入りは3分。しかも半分以上はスポンサー再春館製薬の招待客と見た。
そんな中での高橋由美子の奮闘、思わず点が甘くなる。
興行的にだけでなくキャスティングに疑問ありで、最大のポイントはやはりフランク役。
石川禅は、『ミス・サイゴン MISS SAIGON』のオーディションに合格して、『レ・ミゼラブル LES MISERABLES』『回転木馬 CAROUSEL』と注目を集めてきたという。歌も安定しているし柄も大きくて悪くないが、日本初演のフランクが宝田明だったことからもわかるように、この役、フェロモンが強力に出てる感じが必要。
アニーの純情とフランクのフェロモン。これがドラマの上での核だと思う。
フランクのフェロモンが弱いとアニーの女の部分が見えてこないから、純情も際立たない。結果、全体の印象が薄っぺらくなる。
鹿内孝も、密かに期待した今村ねずみも、これといった見せ場がなかった。と感じたのは、やはりキャスティングのミスでは?
徳垣友子の相手を今村ねずみにしておけば、少なくともダンス・シーンがもっと盛り上がったと思うのだが。って、そんな細かいことはいいか。
小池修一郎。
大地真央主演の『レイディー・ビー・グッド! LADY, BE GOOD!』を観た時にも思ったが、この人の演出には、黄金時代のハリウッド・ミュージカル映画のショウ場面を再現しようとするようなところがある。だから、群衆場面に優れ、舞台を横に広く使う時にひらめきを見せる(この辺は宝塚の十八番なわけだが)。
今回も、シッティング・ブルがアニーを仲間にする儀式という設定の「I'm an Indian, Too」などで、バスビー・バークレー Busby Berkeley張りの大がかりな群舞を見せてくれた。
それだけでなく、半円形の舞台をかなめに扇形に客席が広がるという特殊な形状をしたコマ劇場を使いこなすアイディアを、様々に凝らしていたと思う。
アニーの曲撃ち場面で標的を客席に据えるなど、この劇場以外では考えにくい広がりを持たせた趣向。ただし、効果はイマイチ。照明の問題か。
ショウ場面ではそうして手腕を発揮する小池だが、コメディ演出は、まあこれは役者の問題が大きいと思うが、もうひとつはっきりしない。印象に残るのが小松政夫の持ちネタだけというのは寂しすぎる(小松が持ちネタを連発せざるをえないのもキャストの層の薄さゆえだ)。
小池は訳詞も手がけて(松田直行と共同)、僕の聴き親しんだ江利チエミ版とはかなり違うものに仕上げていたが、やや説明的すぎた。和田誠的発想の、言葉の響きを大切にする訳詞(に限らずオリジナルでも)が増えてほしい今日この頃です。
と、多々不満のある舞台ではありましたが、小池修一郎演出の楽しいひらめきは見せてもらったし、高橋由美子の意外な一面も発見したし、2500円の席であったことを考えれば、OKというところでしょう。
でも、コマ劇場様、次は採算度外視のたっぷりお金をかけた冒険的ミュージカルをぜひ見せてください。でないと、この特殊な劇場がもったいない。その時は1万円払っても見に行きます。はい。
余談。
前述の「I'm an Indian、 Too」は、MGMがベティ・ハットン Betty Hutton起用以前にジュディ・ガーランド Judy Garlandで撮った2シーンの内の1つで、映画『ザッツ・エンタテイ(ン)メント3 THAT'S ENTERTAINMENT!V』に登場したが、残る1シーン「Doin' What Comes Natur'lly」はヴィデオになった同映画のディレクターズ・カット・ヴァージョンで観ることが出来る。
この2シーンのガーランドは、デイヴィッド・シップマンの書いた伝記(「ジュディ・ガーランド」袴塚紀子訳・キネマ旬報社)にあるのとは逆に、前者で明るく、後者では疲れ果てているように見える。
その時の監督がバスビー・バークレーで、伝記によれば、ガーランドとは全く相容れなかったらしい。
(4/29/1997)
Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi
previous/next
[HOME]
|